息づく内科医

関東地方の呼吸器内科医です。

自然気胸の外来でのマネジメント

Ambulatory Management of Primary Spontaneous Pneumothorax: An Open-Label, Randomised Controlled Trial
Lancet. 2020 Jul 4;396(10243):39-49. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31043-6.

 

原発性の自然気胸はもともと元気な若者に起こる。理想的な管理の方法は確立されておらず、しばしば入院期間の延長が起きる。外来管理に関するデータはほとんどない。標準治療と比較して外来管理での入院期間と有効性を検証することが目的である。

非盲検化のランダム化比較試験で、英国24の病院で3年間に症状のある原発性の自然気胸の患者を対象とした。患者はランダムに外来管理の装置(Heimlichバルブ)か標準治療(穿刺吸引、胸腔ドレーン、両方)に1:1で割り付けられた。Primary outcomeはランダム化後30日までの再入院を含む入院期間とした。利用可能な患者データはprimary analysisに含まれ、解析された患者はすべて安全性の評価も行われた。この研究はInternational Standard Randomised Clinical Trials Number, ISRCTN79151659に前向きに登録された。

2015年7月から2019年3月までに776人がスクリーニングされ、236 (30%)が外来治療(n=117)と標準治療(n=119)に割り付けられた。30日時点で、データ利用可能な外来治療の患者114例(中央値0[0-3]日)は標準治療113例(4[0-8]、p<0·0001、中央値の差2日[1-3])に比較して入院期間を有意に短縮した。110 (47%)は有害事象があり、64 (55%)は外来治療、46 (39%)は標準治療だった。重大な有害事象の14例はすべて外来治療で、8例は気胸の拡大、無症候性の肺水腫、デバイスの誤作動やリークや除去を含む介入関連のものだった。

原発性の自然気胸の外来治療は最初の30日間の再入院を含む入院期間を有意に短縮したが、有害事象は増えた。このデータにより原発性の自然気胸の外来治療は介入が必要な場合、デバイスを使用すれば可能かもしれないと示した。

COVID-19に対するコルヒチンの効果と心臓と炎症性バイオマーカーの変化

Effect of Colchicine vs Standard Care on Cardiac and Inflammatory Biomarkers and Clinical Outcomes in Patients Hospitalized With Coronavirus Disease 2019: The GRECCO-19 Randomized Clinical Trial.

JAMA Netw Open. 2020 Jun 1;3(6):e2013136. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.13136. (Original study)

 

SARS-CoV-2による感染症は世界的なパンデミックになっている。低用量のコルヒチンは抗炎症性効果があり、副作用も許容範囲内である。

COVID-19で入院した患者に対するコルヒチンの心臓と炎症性バイオマーカーの変化と臨床効果を評価することが目的である。

前向きの非盲検化ランダム化比較試験(the Greek Study in the Effects of Colchicine in COVID-19 Complications Prevention)で、2020年4月3日から4月27日までCOVID-19で入院した105例を1:1で標準治療か標準治療+コルヒチンに割り付けた。研究はギリシャの16の三次病院で行われた。

コルヒチン(ローディング1.5mg、60分後に0.5mg、維持療法として0.5mgを1日2回)は3週間以内の投与とした。

Primary end pointsは(1)高感度トロポニンの最大値、(2)CRPが上限の3倍になるまでの時間、(3)日常生活可能から死亡までの7段階評価での2点の悪化までの時間とした。Secondary end pointsは(1)人工呼吸器管理が必要な患者の割合、(2)全死亡、(3)有害事象の数、種類、重症度、重大度とした。Primary end pointsはITT解析した。

105例(61 [58.1%]が男性、64 [54-76]歳)が評価され、50 (47.6%)例がコントロール、55 (52.4%)例がコルヒチンにランダム化された。高感度トロポニンのピークの中央値はコントロールで0.0112 (0.0043-0.0093) ng/mL、コルヒチンで0.008 (0.004-0.0135) ng/mL(P = .34)だった。CRPの最大値の中央値はそれぞれ4.5 (1.4-8.9) mg/dLと3.1 (0.8-9.8) mg/dL (P = .73)だった。臨床的なprimary end pointはコントロールで14.0%(7/50)、コルヒチンで1.8%(1/55)(オッズ比 0.11; 95% CI, 0.01-0.96; P = .02)だった。イベントなしの生存期間はコントロールで18.6±0.83日、コルヒチンで20.7±0.31日(log rank P = .03)だった。有害事象はコルヒチンで下痢(25[45.5%] vs 9[18.0%]; P = .003)が多かったが、他は同程度だった。

ランダム化比較試験でコルヒチンは臨床的な悪化までの期間を統計学的に有意に延長した。高感度トロポニンやCRPに有意差はなかった。これらの所見は解釈に注意を要する。

癌性胸膜炎に対する胸膜癒着術でタルクの混濁液のドレーン注入と局麻下胸腔鏡での散布の比較

Thoracoscopy and talc poudrage compared with intercostal drainage and talc slurry infusion to manage malignant pleural effusion: the TAPPS RCT.

Health Technol Assess. 2020 Jun;24(26):1-90. doi: 10.3310/hta24260. (Original study)

 

英国では毎年約40000例の新規の癌性胸膜炎の患者がいる。英国の現在の標準治療はタルクの混濁液を胸腔ドレーンから投与する方法である。しかし、タルクを局麻下胸腔鏡で散布することを好む施設もある。どちらが有効な治療かというコンセンサスはない。

この試験は胸腔鏡でのタルク散布はドレーン挿入して混濁液投与する方法と比較して3ヶ月時点の胸膜癒着術の成功率を上昇させるという仮設を検証した。

他施設、非盲検化、ランダム化比較試験で経済的評価も行った。フォローアップは1,3,6ヶ月後に行った。

試験は英国内のNHSの17の病院で施行された。

癌性胸膜炎と診断され、胸膜癒着術が必要で、局麻下胸腔鏡を施行できる330例が含まれた。組織診断が必要な場合や肺の拡張が得られない場合は除外された。

ウェブによる中央コンピューターシステムで最小化法を用いた割付を行った。コントロール群はベッドサイドで胸腔ドレーンを留置し、4gのタルク混濁液を投与された。介入群では局麻下胸腔鏡で4gのタルクを散布した。

Primary outcomはランダム化90日後の胸膜癒着術の失敗とした。Secondary outcomeは死亡率、患者報告による症状とした。費用対効果も評価した。

166例が胸腔鏡、164例が混濁液を投与された。ベースラインは同等だった。Primary outcomは90日後失敗率に有意差はなく、介入群で22%(36/161)、コントロール群で24%(38/159)だった(OR 0.91, 95%CI 0.54-1.55; p = 0.74)。有害事象、secondary outcome、180日後の胸膜癒着術の失敗率(介入群46/161 (29%), コントロール 44/159 (28%), OR 1.05, 95% CI 0.63-1.73; p = 0.86)、90日までの入院泊数(介入群12±13泊, コントロール12±10; p = 0.35)、180日までの全死亡(介入群66/166 (40%), コントロール68/164 (42%); p = 0.70)を含め有意差がなかった。£20,000でのQOLで調整した費用対効果は介入群はコントロールと比較して0.36だった。

胸腔鏡が可能な患者を対象としたため、さらにフレイルな患者には当てはまらないかもしれない。非盲検化の研究のため、患者の症状の報告に影響した可能性がある。

TAPPS試験は癌性胸膜炎の管理でタルク混濁液と比較して胸腔鏡によるタルク散布は有用性としても費用対効果としても優れているとは言えないと大まかに示した。

NSCLCの免疫療法の治療バイオマーカーとしての循環miRNA、細胞外miRNA含有小胞

Circulating miRNAs and extracellular vesicle containing miRNAs as response biomarkers of anti PD-1/PD-L1 therapy in non-small-cell lung cancer.

J Thorac Oncol. 2020 Jun 18. pii: S1556-0864(20)30467-6. doi: 10.1016/j.jtho.2020.05.022. [Epub ahead of print]

 

PD-1/PD-L1抗体による治療は進行期のNSCLCの標準治療となっており、PD-L1の免疫組織染色は治療効果の予測のバイオマーカーとなっている。しかし、すべてのPD-L1の高発現のNSCLCの患者が奏功する訳ではなく、PD-L1低発現でもそれなりの効果を示すこともあり、より正確な予測のためのバイオマーカーが必要とされている。循環miRNAと細胞外miRNAを含む小胞(EV)は免疫細胞の細胞内伝達や腫瘍細胞と免疫細胞の伝達で重要な役割をすると考えられ、メカニズムに関連したバイオマーカーになるかもしれない。

PD-1/PD-L1抗体単剤で治療した進行期NSCLCの治療前の血漿をこの研究では用いた。血漿のEVはサイズによるクロマトグラフィーで抽出した。すべての血漿RNAを含むEVが抽出された。次世代シークエンサーを用いてmiRNAのプロファイルを解析した。

14例のレスポンダー(PRまたはPDで6ヶ月以上)、15例の非レスポンダー(RECISTでPD)の検体を解析した。合計で全血漿の32のmiRNA(p=0.0030 - 0.0495)と、7のEV関連のmiRNA(p=0.041 - 0.0457) はレスポンダーと非レスポンダーで濃度に有意差を認めた。これらの循環miRNAのいくつかは8例のレスポンダーと13例の非レスポンダーによる別のコホートで検証された。両方のコホートに参加した患者の腫瘍のPD-L1も免疫組織染色を用いて調べた。

特定の全血漿のmiRNAと血漿EVのmiRNAはレスポンダーと非レスポンダーで異なる発現を示し、PD-1/PD-L1抗体による治療効果の予測のバイオマーカーになる可能性がある。

再発性の癌関連静脈血栓症に対する修正Ottawaスコアの診断性能

Predictive ability of modified Ottawa score for recurrence in patients with cancer-associated venous thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry.

Thromb Res. 2020 Jul;191:66-75. doi: 10.1016/j.thromres.2020.04.047. Epub 2020 May 4. (Original study)

 

癌関連静脈血栓症の患者での再発のリスクを予測するための修正Ottawaスコアの外的妥当性は十分に確立していない。この研究では癌関連静脈血栓症の患者での再発のリスクの層別化に対する有用性と限界を検証することが目的である。

Table 5 from Validation of the clinical prediction rule for ...

COMMAND VTEレジストリーは日本の29施設での急性の症候性の静脈血栓症の患者3027例を登録した他施設後ろ向きレジストリーである。この研究では癌関連静脈血栓症の614例を3群に分けた;高リスク(Ottawaスコア=1)202例(33%)、中間リスク(Ottawaスコア=0)269例(44%)、低リスク(Ottawaスコア=-1)143例(23%)。

抗凝固療法6ヶ月以内に再発性の静脈血栓症は39例で起きた。累積の再発性の静脈血栓症は修正Ottawaスコアのカテゴリーがハイリスクになるほど増加した(高リスク: 13.6% [95%CI, 8.9%-20.2%], 中間リスク: 5.9% [95%CI, 3.5%-9.8%], 低リスク: 3.0% [95%CI, 1.1%-7.8%], P = .02)。スコアの弁別能力はC-statisticで0.63であり、中程度だった。スコアのそれぞれの構成成分は再発イベントに対して様々な効果で異なった影響だった。

再発性の静脈血栓症のリスクは修正Ottawaスコアのカテゴリーがハイリスクになるほど増加したが、再発を弁別するパワーは中程度でスコアの構成成分の影響は様々だった。

胸水中のSARS-CoV-2のRT-PCRが陽性となった1例

First Detection of SARS-CoV-2 by Real-Time Reverse-Transcriptase-Polymerase-Chain-Reaction (RT-PCR) Assay in Pleural Fluid
Chest. 2020 Jun 11;S0012-3692(20)31660-3.

 

COVID-19はSARS-CoV-2による世界中でパンデミックとなった感染症で、無症候性からARDSまで幅広い重症度になる。診断のゴールドスタンダードは鼻咽頭スワブによるRT-PCRだが、感度による限界から胸部画像は診断に重要で補完的な役割があり、胸水のような非典型的な所見や他の検体採取の部位を明らかにすることができる。一般的では胸膜の所見は少数の患者で報告されている。超音波ガイドによる胸腔穿刺でSARS-CoV-2のRT-PCRが陽性となった初めての症例を報告し、臨床的な特徴を記述する。胸水はCOVID-19で一般的な症状ではないが、胸水にも局在することを知っていることで診断に最大限利用でき、これらの患者の管理を改善することができる。

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COVID-19で胸水を認めるのは5%程度とされています

初診時にCRPが30と非常に高いため細菌性胸膜炎の可能性もありそうですが、培養は陰性だったとのことです

SARS-CoV-2によるウイルス性胸膜炎を起こし得るとのことで、興味深い報告でした

ダイアモンド・プリンセスのCOVID-19の104例

Clinical characteristics of COVID-19 in 104 people with SARS-CoV-2 infection on the Diamond Princess cruise ship: a retrospective analysis

Lancet Infectious Disease Published:June 12, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30482-5

 

進行中のCOVID-19のパンデミックはグローバルな脅威となっている。症状のオンセットと疾患の進行のマーカーとなる因子を同定することは喫緊の問題である。自衛隊中央病院(日本、東京)に入院して観察期間が終了するまでの、ダイアモンド・・プリンセス号に乗船して無症候性のSARS-CoV-2感染、軽症、重症のCOVID-19と診断された患者の臨床的な特徴を記述した。

2020年2月11日から2月25日まで自衛隊中央病院に入院した検査で確認されたSARS-CoV-2感染症患者の単施設、後ろ向き研究である。臨床記録、検査データ、画像所見が解析された。臨床転帰は2020年2月26日までか退院までの早い方までフォローアップした。無症候性SARS-CoV-2感染を臨床兆候や症状のないこと、重症COVID-19は肺炎兆候があること(呼吸困難、頻呼吸、SpO2<93%、酸素投与が必要)、軽症COVID-19はそれ以外と定義した。入院時の臨床兆候は観察終了時の無症候性を含む重症度と比較した。無症候性SARS-CoV-2感染者の中で症候性となることやCOVID-19の進行と関連する因子を同定するため単変量解析を行った。

最終解析には104例が含まれ、年齢中央値は68歳(四分区間47-75)、54 例(52%)は男性だった。入院時に43例(41%)は無症候性、41例(39%)は軽症、20例(19%)は重症だった。観察終了時点で33例(32%)は無症候性、43例(41%)は軽症、28例(27%)は重症だった。入院時は無症候性だったが入院中に症候性となった10例は、観察期間中ずっと無症候性だった33例と比較して血清LDHが有意に高かった(5 [50%] vs 4 [12%] ; オッズ比 7·25, 95% CI 1·43–36·70; p=0·020)。観察終了時点で軽症のCOVID-19は重症と比較して高齢 (中央値73歳 [55–77] vs 60歳[40–71]; p=0·028)、入院時のCTで浸潤影があることが多く(13/28 [46%] vs 9/43 [21%]; p=0·035) 、リンパ球が減少 (16 [57%] vs 10 [23%]; p=0·0055)していた。

高齢、胸部CTで浸潤影、リンパ球減少はCOVID-19の進行のリスクファクターの可能性があり、臨床管理の改善に寄与するかもしれない。

 

ダイアモンド・プリンセスの臨床疫学的な論文としては初めての報告とのこと。

Limitationにあるように、自衛隊中央病院はほとんどが軽症者(挿管は1例)のため船全体の結果を反映しているとはいえなさそうです。