息づく内科医

関東地方の呼吸器内科医です。

INSIGHT study

Tepotinib plus gefitinib in patients with EGFR-mutant non-small-cell lung cancer with MET overexpression or MET amplification and acquired resistance to previous EGFR inhibitor (INSIGHT study): an open-label, phase 1b/2, multicentre, randomised trial.

2020 May 29. pii: S2213-2600(20)30154-5. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30154-5. [Epub ahead of print]

 

EGFR阻害薬で抵抗性となったEGFR遺伝子変異のあるNSCLCで、MET overexpression (免疫組織染色IHC2+ or IHC3+) かMET amplificationのある場合、経口の高選択性のMET阻害薬であるテポチニブとゲフィチニブの効果と安全性を調べた。

Open-labelのphase 1b/2、他施設共同のランダム化比較試験で、アジア6カ国の教育研究病院と市中病院で進行性または転移性NSCLCでECOG performance statusが0か1の成人(18歳以上)を組み入れた。phase 1bでは患者はテポチニブ300mgか500mgと、ゲフィチニブ250mgを1日1度投与された。phase 2ではEGFR遺伝子変異があり、T790M変異がなく、MET overexpressionかMET amplificationがある患者をランダムに推奨されたPhase 2の量のテポチニブ+ゲフィチニブ群と標準のプラチナ併用療法に割り付けられた(当初は1:1、プロトコルを改定して2:1)。ランダム化は中央で双方向の音声反応システムを用いた。Primary endpointは研究者によるPFSとした。Secondary endpointはOSと安全性とした。サブグループ解析はMET overexpression (IHC3+)かMET amplification(平均ゲノムコピー数5以上か7番染色体に対するMETの割合が2以上)で計画された。有効性と患者背景はITT解析され、安全性は少なくとも1度以上の研究薬剤を投与された患者を解析した。患者対象が少なく、Phase 2は早期に終了したためすべての解析は探索的である。

2013年12月23日から2017年5月25日まで、18例がphase 1b(6例がテポチニブ300mg、12例が500mg)、55例がphase 2(31例がテポチニブ+ゲフィチニブ、24例が化学療法)に組み入れられた。Phase 1bでは容量による毒性は観察されなかったため、Phase 2ではテポチニブ500mgを推奨する量とした。Phase 2では生存のアウトカムは2群で似ていた。PFS中央値はテポチニブ+ゲフィチニブ群で4.9ヶ月 (90% CI 3·9-6·9) 、化学療法群で4.4ヶ月(90% CI 4·2-6·8; hazard ratio [HR] 0·67, 90% CI 0·35-1·28)だった。OS中央値はテポチニブ+ゲフィチニブ群で17.3ヶ月 (90% CI 12·1-37·3) 、化学療法群で18.7ヶ月(90% CI 15·9-20·7; HR 0·69, 0·34-1·41)だった。PFSとOSはMET overexpressionが高い(IHC3+)(PFS 8·3 months [4·1-16·6] vs 4·4 months [4·1-6·8]; HR 0·35, 0·17-0·74; median OS 37·3 months [90% CI 24·2-37·3] vs 17·9 months [12·0-20·7]; HR 0·33, 0·14-0·76)、MET amplificationが多い(n=19; median PFS 16·6 months [8·3-not estimable] vs 4·2 months [1·4-7·0]; HR 0·13, 0·04-0·43; median OS 37·3 months [90% CI not estimable] vs 13·1 months [3·25-not estimable]; HR 0·08, 0·01-0·51)と長かった。

最も多いGrade3以上の有害事象はテポチニブ+ゲフィチニブ群でアミラーゼ上昇(5/31, 16%)、リパーゼ上昇(4/31, 13%)、化学療法群で貧血(7/23, 30%)、好中球減少(3/23, 13%)だった。

早期の研究終了にも関わらず、EGFR遺伝子変異のあるNSCLCでMET amplificationがあれば化学療法よりテポチニブ+ゲフィチニブは有効な可能性があり、さらなる研究が必要である。

使い捨てマスクの歴史

A history of the medical mask and the rise of throwaway culture.
May 22, 2020: Lancet

 

COVID-19のパンデミックで、フェイスマスクの不足は現代医学と公衆衛生の脆弱性の象徴となった。

口や鼻を覆うのは伝統的な衛生方法で、ペストの鳥の嘴のマスクで代表される瘴気を浄化させる使われ方をした。これらの方法は18世紀には廃れていった。

1867年に英国外科医のジョセフ・リスターはパスツールによって発見された顕微鏡的な細菌によって創部の感染が起こると考えた。外科医のジョアン・ミクリッツは呼気飛沫から細菌が運搬されることを受け、1897年にガーゼを紐で結んだフェイスマスクをつけ始めた。当初は疑問を持たれたマスクだったが、1923年には欧米の病院の手術室の2/3で、1935年にはほぼすべての病院でマスクを着用していた。

1910-11年のペスト、1918-19年のインフルエンザの大流行により手術室外で医療関係者がマスクを着用するようになった。

20世紀初頭のフェイスマスクはガーゼを重ねたもので、洗濯して再利用可能だった。医療用マスクは1930年代から使い捨ての紙マスクに置き換わり、1960年代には合成繊維の使い捨てマスクに置き換わった。シリンジや針などともに、使い捨てに変更する潮流があった。衛生を保つ意味もあったが、備品管理や労働コストの削減、マスク会社の広告などの影響もあった。1975年に再利用可能なガーゼマスクは使い捨てマスクより優れている、洗濯により繊維が密になってフィルター効果が高まるかもしれないとの研究が出た。その後は工業的に生産された再利用可能なガーゼマスクの研究はない。

使い捨てマスクは医療用防護具の不可欠なものとなっており、次のパンデミックに備えて備蓄などの方法を検討する必要がある。

 

手作りマスクの効果をなにかの形で証明できればよいですが。。。

Osimertinibによる術後補助化学療法

Osimertinib as adjuvant therapy in patients (pts) with stage IB–IIIA EGFR mutation positive (EGFRm) NSCLC after complete tumor resection: ADAURA.

DOI: 10.1200/JCO.2020.38.18_suppl.LBA5 Journal of Clinical Oncology 38, no. 18_suppl

 

Osimertinibは第3世代の中枢神経移行性のあるEGFR-TKIで、EGFR遺伝子変異のある未治療のNSCLCに対してGefitinib/Erlotinibより優れた効果がある。NSCLCの約30%は早期 (I–IIIA)で、手術が第一選択になる。術後補助化学療法はStageⅡ-Ⅲ、StageⅠBの一部の患者で標準治療となっている。しかし、再発率が高く、他の治療法が必要である。

ADAURA (NCT02511106)はPhaseⅢの二重盲検ランダム化比較試験で、stage IB–IIIAのNSCLCに対して完全切除後に補助化学療法でプラセボと比較してOsimertinibの効果と安全性を調べた。独立データ管理委員会の推奨により、効果のため早期に盲検化を解除した。計画外の中間解析を報告する。

18歳以上(日本と台湾は20歳以上)、WHOのPSが0/1、NSCLCの非扁平上皮癌stage IB/II/IIIA、EGFR遺伝子変異あり(ex19del/L858R)、手術で完全切除後に回復した患者で術後補助化学療法を許可された場合を対象とした。患者はランダムに1:1でOsimertinib 80mg毎日経口投与かプラセボに割付、治療期間は3年までとした。Stage(IB/II/IIIA)、遺伝子変異の種類 (ex19del/L858R)、人種(アジア人/非アジア人)で層別化した。Primary endpointはstage II–IIIAの患者で評価者によるdisease-free survival (DFS) とした。Secondary endpointはoverall survival (OS) と安全性とした。データのカットオフは2020年1月17日とした。

全世界で682例がOsimertinib(n=339)、プラセボ(n=343)にランダム化された。ベースラインの臨床的特徴はバランスが取れていた(osimertinib/プラセボ);stage IB 31/31%, stage II/IIIA 69/69%, female 68/72%, ex19del 55/56%, L858R 45/44%。stage II–IIIAの患者で、DFSのHRは0.17 (95% CI 0.12, 0.23); p<0.0001 (156/470 events)だった。2年のDFSはOsimertinibで90%、プラセボで44%だった。全患者のDFSのHRは0.21 (0.16, 0.28); p<0.0001 (196/682 events)だった。2年のDFSはOsimertinibで89%、プラセボで53%だった。OSは未到達だった。安全性は既知のOsimertinibのプロファイルと一致していた。

stage IB/II/IIIAのEGFR遺伝子変異のあるNSCLCで完全切除後に術後補助化学療法が導入できる場合、Osimertinibは統計学的に臨床的に意味のあるDFSの改善を示した最初の研究である。術後補助化学療法のOsimertinibはこれらの患者で効果的な新しい治療戦略になる。

 

control armがプラセボですが、CDDP+VNRやCDDP+PEMと比較するとどのような結果になるかが気になります

使える薬は早期からという流れなのでしょうか

NSCLCのMET Exon 14 skippingに対するテポチニブ

Tepotinib in Non–Small-Cell Lung Cancer with MET Exon 14 Skipping Mutations
N Engl J Med. 2020 May 29. doi: 10.1056/NEJMoa2004407. Online ahead of print.

 

癌遺伝子のExon14の転写の損失の原因となるスプライシングの部位の変異は非小細胞肺癌の3-4%に起こる。この集団で、高選択性のMET阻害薬のテポチニブの効果と安全性を評価した。

Open-labelのPhaseⅡ試験で、METのExon14 skippingが確認された進行または転移性のNSCLCの患者に対してテポチニブ(500mg)を毎日1回投与した。Primary end pointは少なくとも9ヶ月以上のフォローアップをした患者に対する独立した評価者による客観的な奏効とした。奏効はまた、リキッドバイオプシーか組織検体でMET exon14 skippingが存在するかも解析した。

2020年1月1日までで、152例がテポチニブを投与され、99例が9ヶ月以上フォローされた。独立した評価者による奏効率は46%(95%CI 36-57)で、生検を組み合わせた群で奏効期間の中央値は11.1ヶ月(95%CI 7.2-評価不能)だった。66例のリキッドバイオプシーの群で奏効率は48% (95% CI 36-61) 、60例の組織生検の群で50% (95% CI 37-63)だった。27例は両方の方法で有効な結果だった。研究者が評価した奏効率は56% (95% CI 45-66)で、前治療に関わらず同様だった。テポチニブに関連したと考えられるGrade3以上の有害事象は28%の患者で報告され、7%の末梢性浮腫を含まれた。有害事象によりテポチニブを中断したのは11%だった。リキッドバイオプシーをベースラインと治療中で採取して、腫瘍循環DNAによる分子生物学的な奏効率は67%で観察された。

進行NSCLCのMET exon14 skippingで、テポチニブは約半数の患者で奏効した。Grade3以上の有害事象では末梢性浮腫が最も多かった。

 

ASCO2020の内容がすでに論文として掲載されており、驚きです

SARS-CoV-2抗体のメタアナリシス

Point-of-Care Diagnostic Tests for Detecting SARS-CoV-2 Antibodies: A Systematic Review and Meta-Analysis of Real-World Data.

J Clin Med. 2020 May 18;9(5). pii: jcm9051515. doi: 10.3390/jcm9051515.

 

SARS-CoV-2はCOVID-19で知られる感染力の高い感染症の原因となる。SARS-CoV-2は2019年12月に発見され、以降は全世界でパンデミックになっている。タイムリーで正確なCOVID-19の検査はアウトブレイクの管理に重要なステップだ。これまで、COVID-19の診断のゴールドスタンダードは呼吸器検体のRT-PCRに基づいて行われた。残念ながら、RT-PCRは臨床上いくつかの制限がある。したがって、検査機関や医療機関の負担を軽減し、大規模なスクリーニングを可能にしタイムリーな治療を提供するために代替の検査方法が直ちに必要とされている。これまでにCOVID-19の迅速検査に対する研究はほとんどなく、結果は様々だ。そのため、COVID-19のアウトブレイクの管理の迅速検査の有用性を探索するためメタアナリシスと現在のシステマティックレビューを行った。10の研究に基づき、統合した感度は64.8% (95%CI 54.5-74.0)、特異度は98.0% (95%CI 95.8-99.0)だったが、異質性やリポーティングバイアスが高かった。(1)COVID-19に対する迅速検査は必要だが、適切な感度と特異度が必要である、(2)現在までにほとんど研究がない、(3)解析した研究は症例数が少なくパワーが弱い、(4)これらの結果に焦点を当てると臨床的な目的に使用するのは疑問があり、RT-PCRのような信頼できる分子生物学的な検査の代用とはならない、と結論できる。

 

大規模な研究が待たれます

COVID-19に対するRemdesivir

Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Preliminary Report
N Engl J Med. 2020 May 22. doi: 10.1056/NEJMoa2007764.

 

COVID-19に対していくつかの治療薬が検討されていたが、有効性を示したものはない。

下気道感染症の入院したCOVID-19に対してRemdesivirの静脈投与による二重盲検ランダム化プラセボ比較試験を施行した。患者はRemdesivir(初日は200mg、その後9日まで100mg)かプラセボ10日間にランダムに割り付けられた。退院か感染管理だけのための入院で定義される回復までの期間をprimary endpointとした。

1063例がランダム化された。Remdesivir群で回復までの期間を短縮することが示されたため、データ安全管理委員会は早期の盲検化の解除を推奨した。1059例(538例がRemdesivir、521例がプラセボ)の前段階のデータではRemdesivirを投与された群は回復までの平均期間が11日(95%CI 9-12)で、プラセボ群では15日(95%CI 13-19)だった(回復する割合1.32, 95%CI 1.12-1.55; P<0.001)。14日までのKaplan-MeierではRemdesivir群で死亡率が7.1%に対してプラセボ群では11.9%(HR 0.70; 95% CI, 0.47-1.04)だった。ランダム化された中で、Remdesivir群の114/541例(21.1%)で、プラセボ群の141/522例(27.0%)で有害事象が報告された。

Remdesivirは下気道感染症のある成人のCOVID-19で回復までの期間を短縮した。

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FDAがRemdesivirを承認した根拠となる論文です

中国のLancetの論文は想定外にアウトブレイクが早期に収束したため、統計学的なパワー不足で有意差が出なかった可能性があります

アウトブレイクの最中に実施した研究の中ではとても質の高いもので、どのような集団で効果が高いかなど続報に期待です

 

無症候性のSARS-CoV-2のキャリアの感染性

A study on infectivity of asymptomatic SARS-CoV-2 carriers.

2020 May 13;169:106026. doi: 10.1016/j.rmed.2020.106026. [Epub ahead of print]

 

COVID-19の進行中のアウトブレイクは世界中に広がった。無症候性のSARS-CoV-2のキャリアは感染性があるかどうかは議論が分かれる。無症候性のキャリアの感染性を調べるため、455回の無症候性の患者との接触と特徴を報告する。

無症候性のSARS-CoV-2のキャリアとの455回の接触を対象とした。3群に分けた;35例の患者、196例の家族、224例の医療関係者。疫学データ、臨床記録、補助的な検査結果、治療計画を抽出した。

接触の期間の中央値は患者で4日、家族で5日だった。患者の25%は心血管疾患があった。医療関係者とは別に、患者と家族は医学的に隔離された。検疫期間中に7例の患者と1例の家族は新規の呼吸器症状を発症し、発熱が最も多かった。ほとんどの接触で血液検査は正常範囲内だった。CT検査は全例でCOVID-19を示唆する所見はなかった。核酸検査ではSARS-CoV-2の感染は確認されなかった。

SARS-CoV-2の455回の接触を抽出したところ、無症候性のSARS-CoV-2のキャリアの感染力は弱い可能性がある。