息づく内科医

関東地方の呼吸器内科医です。

ALK陽性肺癌の血栓症のリスク

Impact of ALK Rearrangement on Venous and Arterial Thrombotic Risk in Non-Small Cell Lung Cancer.

J Thorac Oncol. 2020 May 10. pii: S1556-0864(20)30380-4. doi: 10.1016/j.jtho.2020.04.033. [Epub ahead of print]

 

NSCLCではKhoranaスコアのような臨床的な血栓症のリスクの予測スコアのパフォーマンスは悪く、おそらく分子生物学的なサブタイプを省いていることが理由として考えられる。これまでの研究ではALK再構成が陽性の肺癌では血栓症のリスクを増やすとの報告があるが、データは一貫していない。

2009年から2019年までの進行期NSCLCの後ろ向きコホート研究を行った。ALK陽性肺癌とALK陰性肺癌で、これまでに知られた血栓症のリスクとなる共変数でコントロールして(静脈血栓症モデルで15、動脈血栓症モデルで17)最初の動脈または静脈血栓症が起こるまでのtime-to-eventの多変量解析をCox比例ハザード回帰と競合リスク回帰を用いて行った。合計の静脈血栓症の率は多変量の陰性ロジスティク回帰モデルを用いた。

422例のALK陽性肺癌と385例のALK陰性NSCLCが含まれた。ALK陽性の患者は若く、PS良好でほとんどの血栓症のリスクの率は少なかったが、最初の静脈血栓症を起こすリスクは有意に高く(42.7% vs. 28.6%)、再発性の静脈血栓症の率も有意に高かった (13.5% vs. 3.1%)。動脈血栓症の率は同程度だった(5.0% vs. 4.4%)。ALKが寄与する静脈血栓症のリスクは有意だった[Cox model: HR 3.70 (95% CI, 2.51-5.44, P<0.001); competing-risks: SHR 3.91 (95% CI, 2.55-5.99, P<0.001)]。多変量の陰性ロジスティク回帰モデルではALK陽性で高率の静脈血栓症だった[IRR 2.47 (95% CI, 1.72-3.55, P<0.001)]。再発性の静脈血栓症のオッズ比は4.85 (95% CI 2.60 to 9.52, P<0.001)だった。ALKが寄与する動脈血栓症のリスクは有意だった[Cox model: HR 3.15 (95% CI, 1.18-8.37, P=0.021); competing-risks: SHR 2.80 (95% CI, 1.06-7.43, P=0.038)]。

血栓症のリスクでコントロールしたtime-to-eventの解析により、ALK再構成は静脈血栓症の4倍、動脈血栓症の3倍のリスクになる。これらの患者は薬学的な抗血栓療法のメリットがあるかもしれない。