息づく内科医

関東地方の呼吸器内科医です。

重症COVID-19に対するConvalescent Plasma(回復期患者からの血清療法)のRCT

Effect of Convalescent Plasma Therapy on Time to Clinical Improvement in Patients With Severe and Life-threatening COVID-19: A Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2020 Jun 3. pii: 2766943. doi: 10.1001/jama.2020.10044. (Original study)

 

Convalescent Plasma(回復期患者からの血清療法)はCOVID-19に対する潜在的な治療方法だが、ランダム化比較試験によるデータが必要である。

COVID-19に対するConvalescent Plasma(回復期患者からの血清療法)の有効性と有害事象を調べることが目的である。

2020年2月14日から2020年4月1日まで、中国の武漢の7つの施設で、open-labelの他施設ランダム化比較試験を行い、4月28日までフォローアップした。試験には検査で確認されたCOVID-19の重症例(呼吸不全±低酸素血症)、超重症例(ショック、臓器不全、人工呼吸器が必要)の103例が含まれた。200例の登録を予定していたが、試験は早期に中止となった。

標準治療にConvalescent Plasma(回復期患者からの血清療法)を加えた群52例と標準治療のみの51例を比較し、重症度で層別化した。

Primary outcomeは生存退院か6点(1[退院], 6[死亡])中2点以上の疾患重症度スコアの改善で定義される28日以内の臨床的な改善とした。Secondary outcomesは28日後の死亡率、退院までの期間、ベースラインで陽性だったウイルスPCRが72時間以内に陰性化する率とした。

103例(年齢中央値70歳、60例[58.3%]は男性)がランダム化され、101例(98.1%)が試験を完遂した。28日以内の臨床的な改善はConvalescent plasma群の51.9% (27/52)、コントロール群の43.1% (22/51)、(差 8.8% [95% CI, -10.4% to 28.0%]; hazard ratio [HR], 1.40 [95% CI, 0.79-2.49]; P = .26)だった。Primary outcomeは重症例ではConvalescent plasma群の91.3% (21/23) 、コントロール群の68.2% (15/22) 、(HR, 2.15 [95% CI, 1.07-4.32]; P = .03)だった。超重症例ではConvalescent plasma群で20.7% (6/29)、コントロール群で24.1% (7/29)、(HR, 0.88 [95% CI, 0.30-2.63]; P = .83)だった。28日後の死亡率(15.7% vs 24.0%; OR, 0.65 [95% CI, 0.29-1.46]; P = .30)、ランダム化から28日までの退院期間の割合(51.0% vs 36.0%; HR, 1.61 [95% CI, 0.88-2.93]; P = .12)は有意差がなかった。Convalescent plasma群ではウイルスPCRが72時間以内に陰性化する率は87.2%だったが、コントロール群は37.5%(OR, 11.39 [95% CI, 3.91-33.18]; P < .001)だった。Convalescent plasma群の2例は輸血数時間後に有害事象が発生したが、支持療法で改善した。

重症や超重症のCOVID-19で標準治療に追加したConvalescent plasmaは標準治療のみと比較して28日以内の臨床的な改善で統計学的な有意差がなかった。試験の早期終了により臨床的に重要な差を検出するためのパワーが不足した可能性があり、解釈には制限がかかる。

 

中国国内のパンデミックが予想外に早期に終了したため有意差がなかったとのことです。ただ超重症では治療によりウイルスは減っても、それだけでは改善しない可能性もありそうです。

ALK陽性肺癌の血栓症のリスク

Impact of ALK Rearrangement on Venous and Arterial Thrombotic Risk in Non-Small Cell Lung Cancer.

J Thorac Oncol. 2020 May 10. pii: S1556-0864(20)30380-4. doi: 10.1016/j.jtho.2020.04.033. [Epub ahead of print]

 

NSCLCではKhoranaスコアのような臨床的な血栓症のリスクの予測スコアのパフォーマンスは悪く、おそらく分子生物学的なサブタイプを省いていることが理由として考えられる。これまでの研究ではALK再構成が陽性の肺癌では血栓症のリスクを増やすとの報告があるが、データは一貫していない。

2009年から2019年までの進行期NSCLCの後ろ向きコホート研究を行った。ALK陽性肺癌とALK陰性肺癌で、これまでに知られた血栓症のリスクとなる共変数でコントロールして(静脈血栓症モデルで15、動脈血栓症モデルで17)最初の動脈または静脈血栓症が起こるまでのtime-to-eventの多変量解析をCox比例ハザード回帰と競合リスク回帰を用いて行った。合計の静脈血栓症の率は多変量の陰性ロジスティク回帰モデルを用いた。

422例のALK陽性肺癌と385例のALK陰性NSCLCが含まれた。ALK陽性の患者は若く、PS良好でほとんどの血栓症のリスクの率は少なかったが、最初の静脈血栓症を起こすリスクは有意に高く(42.7% vs. 28.6%)、再発性の静脈血栓症の率も有意に高かった (13.5% vs. 3.1%)。動脈血栓症の率は同程度だった(5.0% vs. 4.4%)。ALKが寄与する静脈血栓症のリスクは有意だった[Cox model: HR 3.70 (95% CI, 2.51-5.44, P<0.001); competing-risks: SHR 3.91 (95% CI, 2.55-5.99, P<0.001)]。多変量の陰性ロジスティク回帰モデルではALK陽性で高率の静脈血栓症だった[IRR 2.47 (95% CI, 1.72-3.55, P<0.001)]。再発性の静脈血栓症のオッズ比は4.85 (95% CI 2.60 to 9.52, P<0.001)だった。ALKが寄与する動脈血栓症のリスクは有意だった[Cox model: HR 3.15 (95% CI, 1.18-8.37, P=0.021); competing-risks: SHR 2.80 (95% CI, 1.06-7.43, P=0.038)]。

血栓症のリスクでコントロールしたtime-to-eventの解析により、ALK再構成は静脈血栓症の4倍、動脈血栓症の3倍のリスクになる。これらの患者は薬学的な抗血栓療法のメリットがあるかもしれない。

サルコイドーシスの診断ガイドライン ATS

Diagnosis and Detection of Sarcoidosis

An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline

Am J Respir Crit Care Med. 2020 Apr 15;201(8):e26-e51. doi: 10.1164/rccm.202002-0251ST. (Evidence-based guideline)

 

リンパ節生検について

1. サルコイドーシスが強く疑われる所見がある場合(Lofgren症候群、Heerfordt症候群、びまん浸潤型皮膚病変(lupus pernio))はリンパ節生検しないことを提案する。

2. 無症候性の両側肺門部リンパ節腫大のある患者に対して、リンパ節生検を推奨も反対も行わない。

3. サルコイドーシスが疑われ、縦隔±肺門部リンパ節腫大があり生検が必要な場合は、最初の生検方法として縦隔鏡よりもEBUS-TBNAを提案する。

 

肺外病変のスクリーニングに関して

1. 眼症状のないサルコイドーシスに対して、ベースラインの眼サルコイドーシスのスクリーニングのため眼検査を提案する。

2. 腎サルコイドーシスの症状や診断がついていないサルコイドーシスに対して、腎サルコイドーシスのスクリーニングとしてベースラインの血清Creの測定を提案する。

3. 肝サルコイドーシスの症状や診断がついていないサルコイドーシスに対して、肝サルコイドーシスのスクリーニングとしてベースラインの血清ALPの測定を提案する。

4. 肝サルコイドーシスの症状や診断がついていないサルコイドーシスに対して、肝サルコイドーシスのスクリーニングとしてベースラインの血清トランスアミナーゼの測定は推奨も反対もしない。

5. 無症候性や高Ca血症の症状のないサルコイドーシスに対して、Ca代謝異常のスクリーニングとしてベースラインの血清Caの測定を提案する。

6. ビタミンDの代替が必要など、ビタミンD代謝の測定が必要な場合、ビタミンD代替治療の前に25-OH-ビタミンD、1,25-OH-ビタミンDの測定を提案する。

7. 血液学的異常のスクリーニングのため、サルコイドーシスの患者に対しベースラインのCBCの測定を提案する。

8. 心臓外のサルコイドーシスで心臓の症状や兆候がない場合、心疾患の関与として経胸壁心エコーやHolter心電図をルーチンのベースラインの測定として提案しない。

 

肺外病変が疑われる場合の診断に関して

1. 心臓外のサルコイドーシスで心サルコイドーシスが疑われる場合、診断情報や予後の情報を得られるため、PETや経胸壁心エコーよりも心臓MRIを提案する。

2. 心臓外のサルコイドーシスで心サルコイドーシスが疑われる場合でMRIが使用できない場合、診断情報や予後の情報を得られるため、経胸壁心エコーよりもPETを提案する。

3. サルコイドーシスで肺高血圧が疑われる場合、まず経胸壁心エコーを提案する。

4. サルコイドーシスで肺高血圧が疑われ経胸壁心エコーでも肺高血圧が疑われる場合、肺高血圧の診断や除外のため右心カテーテルを提案する。

5. サルコイドーシスで肺高血圧が疑われ経胸壁心エコーでも肺高血圧が疑われない場合、右心カテーテルはケースバイケースで必要性を判断する。

 

心臓MRIがPETより有用なようです

症状で制限した胸腔穿刺の吸引による合併症

Complications following symptom limited thoracentesis using suction.
Eur Respir J. 2020 Jun 4. pii: 1902356. doi: 10.1183/13993003.02356-2019. [Epub ahead of print]

 

吸引による胸腔穿刺は気胸や再膨張性肺水腫を含む合併症のリスクが増えると言われている。最新のガイドラインでは再膨張性肺水腫を防ぐため、1.5Lまでのドレナージを推奨されている。吸引による胸水の症状で制限したドレナージの合併症の発生率と、再膨張性肺水腫のリスクファクターを同定することが目的である。

2004年1月1日から2018年8月31日まで、症状による吸引で胸腔穿刺をした、成人のこの施設での後ろ向きコホート研究である。合計10344回の胸腔穿刺が含まれた。

1.5L以上ドレナージしたのは19%だった。胸部不快感(39%)、胸水の完全排泄(37%)、持続する咳嗽(19%)によって胸腔穿刺は中止となった。胸部画像による気胸は3.98%で検出されたが、処置を要したのは0.28%だった。再膨張性肺水腫は0.08%で発生した。ECOG performance status 3以上で1.5Lドレナージすると再膨張性肺水腫の発生率が上がった(0.04-0.54%, 95% CI 0.13-2.06)。同側の縦隔偏位があっても胸腔穿刺の合併症は増加しなかったが、ドレナージできた量は少なかった(p<0.01)。

症状で制限した胸腔穿刺は多量にドレナージしても安全だった。処置が必要な気胸や再膨張性肺水腫はどちらも稀だった。同側の縦隔偏位があっても合併症は増えなかった。再膨張性肺水腫はPS不良で1.5L以上ドレナージすると増加した。胸腔内圧を測定しない、症状で制限した吸引による胸腔穿刺は安全だった。

 

単施設で気胸の率が高い気がします

胸水のドレナージは意外とたくさん抜いても大丈夫なのかもしれません

連花清瘟(漢方薬)によるCOVID-19の効果と安全性

Efficacy and Safety of Lianhuaqingwen Capsules, a repurposed Chinese Herb, in Patients with Coronavirus disease 2019: A multicenter, prospective, randomized controlled trial.

Phytomedicine. 2020 May 16:153242. doi: 10.1016/j.phymed.2020.153242.

 

COVID-19は世界でアウトブレイクしている。使用可能なターゲットとした治療法はほとんど存在しない。連花清瘟カプセルは作り変えられた中国の漢方薬で、インフルエンザに対する効果が証明されている。

連花清瘟カプセルのCOVID-19患者に対する安全性と有効性を調べることが目的である。

COVID-19が確認された患者に対する連花清瘟カプセルの前向き、他施設、open-labelのランダム化比較試験を施行した。患者は標準治療のみか、連花清瘟カプセル(4カプセル、1日3回)を14日間の投与と標準治療にランダム化された。Primary endpointは症状(発熱、疲労、咳嗽)からの回復の数値とした。

284例(142例ずつ)が完全に解析された。回復の比率はコントロール群と比較して治療群で有意に高かった(91.5% vs. 82.4%, P=0.022)。症状の改善までの期間は治療群で有意に短かった(中央値7 vs. 10日, P<0.001)。解熱までの時間(2 vs. 3日)、疲労の回復の期間(3 vs. 6日)、咳嗽の改善までの期間(7 vs. 10日)は治療群で有意に短かった(すべてP<0.001)。胸部CTの改善の比率 (83.8% vs. 64.1%, P<0.001)、臨床的なケアの改善(78.9% vs. 66.2%, P=0.017)も治療群で有意に高かった。しかし、重症例からの改善やウイルスアッセイの所見の改善は変わりなかった(どちらもP>0.05)。重大な有害事象は報告されなかった。

安全性と有効性の観点では、連花清瘟カプセルはCOVID-19の症状を改善する可能性がある。

 

プラセボを用いていませんが、インフルエンザの有効性などを踏まえると有望な可能性はあります

NSCLCに対するアテゾリズマブとプラチナ併用療法による術前化学療法

Neoadjuvant atezolizumab and chemotherapy in patients with resectable non-small-cell lung cancer: an open-label, multicentre, single-arm, phase 2 trial

Lancet Oncology 2020 May 7

 

非小細胞肺癌の約25%は切除可能なstage IB-IIIAで、手術前後の化学療法は標準的な治療として行われるが、治療戦略としては少しの生存に寄与することしか示されていない。免疫チェックポイント阻害薬によるNSCLCの活性に基づき、切除前の術後補助化学療法としてPD-L1阻害薬のアテゾリズマブとカルボプラチン、ナブパクリタキセルの有効性の研究を行った。

Open-labelの他施設、single-armのPhase 2試験は米国の3つの病院で行われた。18歳以上でAJCCの定義でstage IB-IIIAの、ECOG performance status 0-1で喫煙歴のあるNSCLCを対象とした。アテゾリズマブ(1200mg)をday1、ナブパクリタキセル(100mg/m2)をday1.8.15、カルボプラチン(AUC 5)をday1に、21日サイクルとして術前化学療法として頸静脈投与された。2コース施行後に進行がなければ追加でさらに2コース投与可能とし、その後に手術した。Primary endpointは手術時に10%以下のviableな腫瘍の残存で定義される病理学的な奏功とした。すべてITT解析された。

2016年5月26日から2019年3月1日まで39例が対象となり、30例が登録された。23 (77%)例はstage IIIAだった。29 (97%)例は手術を施行し、26 (87%)例はR0の切除を行った。データカットオフの時点(2019年8月7日)でフォローアップの中央値は12·9ヶ月 (IQR 6·2-22·9)だった。30例のうち、17 (57%; 95% CI 37-75)例が病理学的な奏功を達成した。Grade3-4の最も多い有害事象は好中球減少(15/30 [50%])、AST上昇(2/30 [7%])、血小板減少(2/30 [7%])だった。重大な有害事象はGrade3の発熱性好中球減少症(1/30 [3%])、Grade4の高血糖(1/30 [3%])、Grade2の気管支肺出血(1/30 [3%])だった。治療関連死はなかった。

アテゾリズマブ、ナブパクリタキセル、カルボプラチンは病理学的に高い奏効率があり、治療関連の有害事象を管理可能で、手術切除に影響せず、潜在的なNSCLCの術前化学療法のレジメンになるかもしれない。

アフリカ系アメリカ人のCOVID-19の剖検のケースシリーズ

Pulmonary and cardiac pathology in African American patients with COVID-19: an autopsy series from New Orleans

Lancet Respir Med. 2020 May 27
doi: 10.1016/S2213-2600(20)30243-5 [Epub ahead of print]

 

SARS-CoV-2は全米に急速に拡大し、特にアフリカ系アメリカ人で高い合併症と致死率となっている。剖検は疾患の進行過程の理解の一助となり、COVID-19の患者の管理で重要な情報が得られるかもしれない。COVID-19で亡くなったアフリカ系アメリカ人の10例の剖検のケースシリーズで、知る限り初めての心肺の所見に関して報告する。

ニューオリンズでCOVID-19と診断され、主な死因がCOVID-19のアフリカ系アメリカ人の44-78歳の剖検例である。遺族の同意のもと、剖検は行われた。心肺の所見を調べ、特徴的な炎症に関連した免疫組織染色と代表的な部位のRNAラベルと電子顕微鏡の解析を行った。

重要な所見としては、肺の小血管や毛細血管の血栓と微小血管障害があり、出血を伴い、死因に大きく関連した。人工呼吸器管理をされていない患者でさえ、硝子膜形成を含むびまん性肺胞障害の所見があった。心臓の所見としてはリンパ球による心筋炎を伴わない細胞壊死があった。他の微生物による二次的な感染の所見はなかった。

この集団でのCOVID-19の死因にるながる、肺の血栓と微小血管障害を含む病理学的に重要な所見を同定した。これらの集団の管理ではこれらの病理学的機序をターゲットとした治療を含めるべきである。

 

肺の小血管に巨核球が出現しており、血小板による血栓形成が推測されるとのことでした